 |
ビジネスマンのためのお葬式入門
市川 愛(葬儀相談員) |
「お葬式」はある日突然やってくる。しかも自分が喪主となると大変だ。準備不足で後悔する羽目にならないよう、最低限のポイントを知っておこう。
近年、密葬・家族葬という言葉がよく聞かれるようになった。会社関係や地域社会などへの告別式をせず、家族や近い親族だけで執り行う葬儀のスタイルを指すもので、最近はこのスタイルが増えている。だが、喪主(葬儀の主催者)が現役のビジネスマンである場合は、社会的対面もあって、葬儀ではすまないことが多い。密葬にすることで「人間関係や儀礼を軽視している」と批判される心配もあるからだ。こういった場合は、対外的に告知する一般葬になるが、一般葬は密葬に比べて規模が大きいだけでなく、参列者への接待などさまざまな準備が必要になり、費用も多額になる。
何より「葬儀」はある日突然やってくる。自分の両親の死去などの場合、単に参列すれば済むのではなく、喪主としてすべてを取り仕切り、意思決定しなければならない。葬儀が初めての場合、いくら冷静に対応しているつもりでも、家族を亡くしたという非日常のなかでは限界があり、思わぬトラブルにあったり、想定費用を大幅に上回ってしまうケースも多い。
「初めて自分が主宰する葬儀」をうまく乗り切るためにはどうすればいいのか。ビジネスマンが知っておく べき知識を紹介しよう。
参列者の人数が費用を左右する
家族の死去から葬儀までの意思決定の流れは下の図の通り。葬儀を行う際にはこのような順序でさまざまな事柄を決定をしていく。そして、その意思決定に大きくかかわってくるのが「葬儀費用」だ。密葬など小規模な葬儀の場合は、飲食や返礼品などの「参列者への接待」が必要なく、「祭壇と棺」が費用のほとんどを占めるが、一般葬では、参列者が来ることによる費用が大きくかかってくる。
こうした一般葬を執り行う際に、どのように考え、決定していけばよいのだろうか。それぞれの場面での考え方と費用に関するポイントを、意思決定の順に見ていこう。
図:家族の死去から葬儀までの意思決定の流れ

1 搬送場所の決定
現在の日本では、全体の約9割が病院で亡くなっている。その場合、最初に考えなければならないことは「遺体をどこへ搬送し、安置するか」だ。安置とは、葬儀当日まで遺体を寝かせておくことだが、その間に弔間客があることも想定してなければならない。基本的には自宅に搬送するのが望ましいが、スペースの弔問題などで難しければ、安置施設のある葬儀式場や葬儀社の施設などに搬送する。
このとき注意したいのが、搬送業者の選択だ。ほとんどの病院が葬儀社を紹介してくれるが、その葬儀社が「良心的な業者」とは限らない。葬儀社が病院に多額の費用を払って提携していることも多く、搬送を依頼したながれで葬儀まで任せてしまうと、葬儀費用が高額になる傾向があることを覚えておきたい。「葬儀を依頼すれば搬送費用を割引する」などと言われることもあるが、トータルで高額になってしまっては意味がない。「搬送と葬儀は全く別のもの」と考えておこう。
(費用のポイント)
病院から自宅までの搬送費用は、10キロメートルで約3万円前後が目安。時間帯によっても違う。遺体安置後の保全処置料として1万円、場合によっては人件費として2万円程度の請求をされることもある。合計で8万円を超えるような場合は、電話帳などで別の業者(葬儀社)を探したほうが賢明。また、搬送を依頼する前に、搬送だけを頼む場合の費用を把握することが大切だ。
2 葬儀社の決定
東京都生活文化局の調査で、「葬儀経験者の約8割が何らかの後悔を残している」という結果が出ている。費用がかかりすぎた、葬儀社の質が悪かったなど、理由はさまざまだが、葬儀の満足度は、すべてこの「葬儀社の選択」にかかっているといってもいい内容だ。
金額はもちろんのこと、担当者の対応の良し悪しも、各葬儀社によって大きなばらつきがある。できれば事前に葬儀社を調査し、決定しておくのが望ましいが、突然の死去だった場合でも、最低2社の葬儀社に問い合わせ、担当者の対応や葬儀費用の概算を比較検討したうえで決定しよう。そんな時間的余裕はないように思いがちだが、遺体を安置した時点で、ドライアイスなどの保全処置がなされるため、検討する余裕は十分にある。ここはじっくり取り組み、不安が残るような状態で依頼してしまわないように注意しよう。
(費用のポイント)
葬儀社への問い合わせ方法だが、「葬儀費用はいくらくらいかかるか」という聞き方では、祭壇一式の金額しか出てこず、実際の費用はそれとはかけ離れた結果となる。「約100人の参列者を想定しているが、飲食や返礼品を含めて概算でいくらかかるか」などと聞くことが重要。参列者数の決定は後で行うが、ここではだいたいの数をいれて弔問い合わせるのがコツ。この受け答えで、対応の良し悪しを判断する
3 喪主の決定
喪主とは、葬儀全般の主宰者であり、弔問を受ける遺族の代表者であって、葬儀だけではなく、その後の共養なども主宰していく。通常は、@個人の配偶者、A長男、B次男、C長女、D次女──という順に決めるが、配偶者が高齢の場合は、A以降の子供が務めるのが一般的だ。
4 葬儀規模の決定
葬儀の規模は、参列者の人数に置き換えられる。葬儀式場の広さや飲食・返礼品の量に大きくかかわってくるため、費用の総額を知るうえでも大切な要素だ。
特に一般葬の場合は、人数によって費用におおきな開きがでる。人数が多くなれば、用意する飲食や返礼品の数量も多くなり、葬儀式場が広くなれば、利用料も高くなるうえ、その広さにあわせた祭壇の大きさが必要になる。100人の違いが100万円以上の開きを生むこともある。ここはしっかりと考えておこう。参列者の人数は、葬儀を告別する範囲で把握できるので、親族、友人、会社関係などの大まかな人数を「多くて200人くらい」というように、なるべく実際の参列者がオーバーしないように出しておく。年賀状のやり取りを参考にすると計算しやすい。
(費用のポイント)
葬儀式場の2日間の利用料は、参列者100人未満の規模で20万〜40万円程度が主流。200〜300人となると、50万〜80万円程度。500人以上に対応できる式場となると、利用料だけで150万円以上かかることも。一方、参列者が多いとそれだけ平均約7000円といわれる「香典収入」が入る。予想参列者に7000円かければ大まかな香典収入が予測できるが、その際、葬儀後の「香典返し」を忘れてはいけない。香典返しは「半返し」といわれており、香典金額の半額から3分の1程度の品物を返すことになる。
5 日程と場所の決定
葬儀の規模が決まったら、その規模に対応できる葬儀式場を葬儀社に手配してもらい、同時に火葬場の予約をいれてもらう。一般的な仏教で葬儀を行う場合、祖先代々の墓がある菩提寺の住職の意見も取り入れて決定する。
この段階で日程と場所が決定し、対外的な告知ができるようになる。故人名、死亡日時、葬儀日程、葬儀式場の場所、喪主名、連絡先などを記した訃報を作成し、遺族で手分けをして関係先に連絡をする。
かつては死亡日から日を置かずに葬儀を行うのが普通だったが、近年は遠方に住む親族や参列者の移動日なども考慮しつつ、ゆとりをもって決めることも多くなっている。また、葬儀式場が混み合っている場合、1週間程度待つこともある。
(費用のポイント)
葬儀式場の広さによって利用料が変わることは前述したが、式場の運営母体によっても費用は変わってくる。自治体に公営の式場がある場合は、民間式場の半額以下で借りることができる。
ただ、公営の式場は人気があるため混み合っていることが多く、何日も待たなければならないこともある。遺体を安置・保全しておくための費用は1日につき1万円程度かかるため、日程が先になる場合は、その費用も計算に入れておこう。
6 葬儀内容の決定
葬儀社と葬儀内容を打ち合わせ、喪主の方針に沿った内容で見積もりを作成してもらう。ここでの打ち合わせ内容は、祭壇や棺のランク、飲食・返礼品の内容から、案内看板の枚数まで多岐にわたる。葬儀の項目には耳慣れない専門語も多く、初心者には理解しにくいものだが、ここであいまいにしてしまうと、必要のないものまで買わされることになりがちだ。わからないことはわかるまで質問するという姿勢で臨みたい。良心的な葬儀社であれば、ひとつひとつの質弔問に丁寧に答えてくれるはずだ。ここで葬儀の流れもよく確認しておこう。
この時点で飲食や返礼品の総額が計上されていなかったため、精算時に予想以上の請求が来てしまうというトラブルが多い。祭壇や棺、葬儀式場の利用料、人件費などのほかに、飲食や返礼品の項目が総額に計上されているかを必ず確認しておくことが大切だ。また、この見積もりにサインをした時点で、契約したとみなされる。大切な家族が亡くなったという状況下では、どうしても冷静な判断力を欠きがちだ。葬儀社の勤めるまま、要望と違う葬儀にならないように、複数の人間が立ち会うようにしよう。
(費用のポイント)
日本消費者協会の2003年の調査では、祭壇や棺などの葬儀一式費用で150万4000円、飲食接待費用で38万6000円が全国平均という結果が出ている。飲食接待費用は、地域によって、参列者が「通夜振る舞い」などの食事を取る場合と取らない場合があり、それによって大きく違ってくる。参列者が食事をとる場合は、この平均額の倍程度を見込むほうが確実だ。
また、見積もりに計上されていない費用もある。「心づけ(チップ)」と「僧侶へのお布施」だ。心づけは必要ない場合もあるが、都市部では習慣として根強く残っており、相場は合計5万円前後。最初に全額を葬儀社に預けておき、都度渡してもらうことが多い。
僧侶へのお布施は、全国平均では48万6000円となっているが、宗派や地域、寺院の格式、住職の考え方これまでの付き合いの程度などでかわるため一概にはいえない。最近は、寺院に直接聞けば金額を提示してくれることも増えたが、そうでないことも多い。その場合は、葬儀社にその地域での目安を聞いてみるのもひとつの方法だ。
図:心づけの目安
対象 |
一人当たりの心づけ目安 |
霊柩車・バスなどの車両運転手 |
5千〜1万円程度 |
配膳人 |
3~5千円程度 |
火葬場の係員 |
5~1万円程度 ※公営の場合は不要 |
お布施の目安
戒名のランク |
2日間の読経を含めた金額目安 |
信士・信女 |
30万円〜40万円 |
居士・大姉 |
50万円~80万円 |
院号 |
100万円以上 |
※僧侶の移動に迎えを出さない場合は、別途「御車代」として2万円程度包む。
葬儀社の選定はなるべく”事前”に
以上が、葬儀を行う際の意思決定の流れと費用のポイントだ。ここまでをしっかりと自分の意思で決めておけば、そのほかの、遺影に使用する写真を選んだり、弔辞を依頼する人選をしたりという細かなことは、葬儀社が助言してくれる通りに進めれば間違いない。受付や会場案内の手伝いが必要な場合は、勤務先の総務部や所属部署などに相談する。喪主挨拶や会葬礼状の文面なども、葬儀社に例文が用意してあるので、それを参考に準備しよう。
葬儀を主宰することは、一生のうちにそう何度も経験することではないため、経験が不足しているのは当然だ。しかし、いざという時にトラブルに遭わないために、備えておくことはできる。プロの葬儀相談員に事前に相談したり、インターネットで利用できる葬儀社の比較検討サービスを使う人も、ここ1〜2年で爆発的に増えている。今回紹介した内容を参考に、できれば”事前”に、葬儀社の選定まで済ませておくことが望ましい。
【プロフィール】
いちかわ・あい
1973年、神奈川県川崎市生まれ。服飾メーカーに7年間勤務し、百貨店との商品企画・販売企画などを通して徹底した顧客視点を学んだ後、葬儀業界初の葬儀エージェント企業に入社。服飾業界で身体に染み込んだ「顧客サービスの常識」が通用しない葬儀業界の「惨状」に衝撃を受ける。『ウェデング業界にはウェディングプランナーがいるなら、葬儀業界にもプロのサポート役が必要なはず』との想いから、2004年に独立後、「葬儀相談員」という新しい形態の葬儀サービスを考案。
▲ このページのトップへ
>> メディア掲載歴へ